今年は全国大会の代わりに生産者を招いた試飲会を東京と大阪で開催することとなりました。東京では特約店の他にメディアの方々、大阪では一般のお客様もお招きしております。
いろいろな方に聞いていただき、イタリアワインの魅力をお伝えいただければと思います。
2016年の統計ですが、1位がスペイン、2位がイタリア、3位がフランスです。
マヴィ創業時(1998年)の統計は断突でフランスが1位だったのですが、スペインとイタリアがグーっと伸びてきております。この3ヶ国で世界中のオーガニックワインの7割以上を生産しています。
イタリアは地理的に地中海のど真ん中にあります。
ご存知のようにワインの発祥の地というのは黒海周辺のオアシス。その後地中海やドナウ川を伝いヨーロッパに入ってきました。
一昨年まで「イタリアワイン3000年の歴史」と言っていました。それが昨年イタリア政府は「6000年の歴史」と発表しました。急に2倍に増えました。理由はシチリア島で6000年前のワインの痕跡が見つかったことに因ります。ですから、先ほどご紹介したスペイン、フランス、イタリアの中ではイタリアが最も歴史が古いということになります。
気候的な話ですが、地中海の夏はとても乾いています。雨が降らないのです。ぶどうが成長するのは4月から9月ですが、ちょうどその季節に乾燥しています。ですから、まるで砂漠の中のオアシス状態なので、ぶどう栽培に適しています。
もうひとつのポイントはヨーロッパ文明の中心だったということです。
ヨーロッパの文明はロンドンやパリではなく、地中海で生まれて外に広がっていきました。
ヨーロッパからイタリアだけを取り出してみます。 山だらけです。北部の国境沿いにはアルプス山脈があります。中央にはアペニン山脈、シチリア島にはエトナ山があります。平地はとても少ないです。
イタリアの気候ですけれども、ミラノで5月から9月、フィレンツェは4月から10月、ヴェネツィアで5月から9月、ナポリで5月から10月の間に気温が20℃を超します。
最低気温を見ていただいても、4月からぶどうの芽が出ますから、この季節に凍りそうな場所がほとんどないのがお分かりいただけると思います。
さらに、ぶどうが育っていく時の降水量を見ていきますと、日本の梅雨の時期にあたる6月にほとんど雨が降らないことが分かると思います。
ぶどうはやっぱりオアシスの植物ですから「水に弱い」ので、土が湿っていると困ります。しかし、これだけ乾燥しているので湿気のことを心配する必要がないのです。
ですから、イタリアは全国どこでもぶどうが栽培できるのです。
イタリアにもし山がなくて平地だったとしたならば、平地で穀物などを栽培すると思います。でも、これだけ傾斜地ばかりなのでなかなか穀物はできません。その結果、ぶどうやオリーブ、その他の果樹などを栽培することになります。
ヨーロッパ各国のオーガニック耕地面積についてお話します。
イタリアは青色のグラフになります。2007年にトップでした。その後、それ以上にスペインが伸びてきたので2番目となりました。フランスも結構伸びてきています。
このグラフはぶどうだけでなくオーガニック作物全体の畑に関するデータです。
これは全体の農地におけるオーガニック耕地の割合のグラフです。
1位がオーストリア、2位がスペイン、3位がイタリアでオーガニック農地の割合が高いと言えます。
ぶどう畑の割合は1位スペイン、2位イタリア、3位フランスで、最初にお見せしたデータと一緒です。パーセンテージで見ますと、スペインが8.9%、イタリアが9.8%、フランス8.8%です。この3ヶ国に関してはぶどう畑全体の1割弱がオーガニックということになります。これ以上高いのはオーストリアの10.1%です。
オーガニックがつくりやすい気候風土は、ぶどう栽培に関しては斜面畑であること。水はけが良いので、土が湿ってきません。その結果、病気になりにくい。あと日照量も関係してきます。
一番たくさんオーガニックワインを造っているのはヴェネト州です。
2位がプーリア州、3位がエミリア・ロマーニャ州、4位がシチリア州です。
5位から下は生産量が一気に少なくなります。有名かどうかは別として、量的にはほとんどが上位4つの州で造られているということです。一番多く生産している産地はどちらかというと、質より量です。例外はもちろんありますが、ただ質より量を考える生産者が多いと言えます。イタリア人が普段飲むワインの多くは上位4つの州で造られたワインです。
オーガニックワイン農家が一番多いのはシチリア島です。2位がカラブリア、3位がプーリアとなります。このうち先ほどのグループに入っていたのが、プーリアとシチリアになります。
8位がマルケ州。今回来日しているカプリオッティさんの生産地です。
1位のシチリアと比べるとだいぶ少ないです。
21年前のマヴィ創業当時には、イタリアのオーガニックワインは大変少なかったです。特に情報が少なく、私がフランスに住んでいたこともあってフランスのオーガニックワインから始めました。
ミレジムビオというオーガニックワインの国際見本市が毎年1月にあるのですが、私が最初に行った1998年当時は30軒ほどの出展しかなく、その中から3軒の農家さんとのお付き合いをはじめました。その後2000年にオーガニックワインのガイドブックが発売されましたが、当時のガイドブックにはイタリアの生産者はほんの数軒しか掲載されていませんでした。
ぶどう栽培から醸造まで一括して行っているワイン農家がイタリアはものすごく少ないという印象を受けました。
良い情報がなかったので、イタリアの生産者をなかなか増やすことができませんでした。
そういう中で2年位前からもう少しイタリアに目を向けたいと考え、現地にコンタクトを取り始め、カプリオッティさん他何軒かの農家さんとのお取引をはじめました。
EUが15ヶ国だった時代、ちょうど東ヨーロッパが入る前の所得の分布図です。
スイスはEUではないのですが、最も高く、EUの中では、スイス周辺国とパリ、ルクセンブルグが最も所得が高いことがお分かりいただけると思います。
イタリアでいいますと、北部のミラノやトリノが該当します。その次に所得が高いのがリヨンですとかアルザス、ロンドン、北ドイツやデンマークなどになります。カプリオッティさんのマルケ州は所得が二番目に高いソーンに入っています。
フランスの大部分を占めている、下から二番目の層がイタリアではほんの少ししかありません。
スペイン、ポルトガル、ギリシャ、元東ドイツなどは所得が一番低いゾーンに入ります。
このゾーンに先ほど見たイタリアのオーガニックのゾーンがすっぽり入ります。
一国でこれだけ上と下がはっきりとくっきり分かれているイタリアのような国は他にはありません。
EUはオーガニック農業の助成金制度を持っています。
1990年代から始めているのですが、日本でいうところの公共事業のようなものです。
この制度はEUの予算全体の7割を占めています。EU内の工業国からお金を集めて、それを農業国に分配しています。この助成金制度を正当化するため、「環境を守る農業の保護」を推進した結果、農業物市場を開放し国内農業保全の両立を実現しました。
イタリアではこの助成金のおかげでオーガニック農地が拡大しました。
オーガニックぶどう畑は他の農作物より少し遅れて拡大しました。オーガニックの助成金自体は1990年代から始まっていますが、オーガニックぶどう畑面積は2009年から2014年にかけて1.8倍くらいに伸びています。
この背景には2012年の4月にEUのオーガニックワイン醸造規定が制定されたことに因ります。
工業製品は安く、大量につくることを目的としています。そのための手段が必要となります。
ワイン造りにおいては、最初にぶどうを収穫します。工場生産ワインでは、大量の原料を集めるため、栽培者がたくさんいるので、出来がバラバラです。ひとりで栽培していれば、出来を完全に把握することができます。出来がバラバラということは、それをどこかの水準に合わせる必要があります。それと同時に、いろいろなところからぶどうを集めるわけですから、新鮮でないぶどうが紛れ込むリスクもあります。皆さまはお酒を扱っていらっしゃいますので、腐るということがどれだけ危ないことかお分かりいただけると思います。雑菌が入ってしまえば、そのお酒は美味しいものにはなりません。
雑菌を防ぐためどうすればよいかというと、殺菌剤をかけてしまうのです。他には熱をかけて殺菌するという方法もあります。いずれにしても雑菌を殺してしまえば原料が綺麗になります。これが工場の考え方です。もともとぶどうの皮に付いている酵母が働いて勝手に造ってくれるお酒、それがワインです。とても原始的です。実際いまだにマヴィのワイン農家はその製法をメインで醸造しています。もし何か足らなければ補うということはあったとしても、メインはぶどうにもともと付いている酵母です。
工業生産はもともと付いている酵母を殺してしまうところから始まります。そうすると、勝手に発酵は始まらないので、酵母や酵素などを添加する必要があり、さらに発酵しやすいように酸素を送り込みます。そうやって無理やり発酵させた物の香りが良くなければ香料を加えることになります。さらに、飲みやすいように酸味調整剤を加えたりもします。そうやって出来たワインを大量に売るためには、温度管理など手間のかかることはできませんので、劣化しないように保存料として亜硫酸塩などを多く添加します。
2012年からはオーガニックワインでもこれが出来るようになったのです。
こうしてオーガニックワインが大量生産されるようになりました。
これは2007年に南イタリアのオーガニックワイン農家を訪問した時の写真です。
オーガニックワインの生産者を紹介されて、訪問した先があまりにも大規模で、とても驚きました。すでにイタリアではオーガニックワイン大量生産が成立していたのです。何故かというと、南イタリアの貧しい農民たちは自分で醸造設備を持っていません。作れるのはぶどうまでです。
イタリアではEUの助成金でオーガニックぶどう畑がたくさん出来ている訳ですから、生産したぶどうをワインにする大きな工場が必要だったのです。
EUはこの流れを推進する形で2012年にオーガニックワイン規定の統一化を行いました。その結果、EU規模でオーガニックワインを大量生産することができるようになりました。
その後、数年経って日本の大手ビールメーカーがオーガニックワインの扱いを開始しました。今では日本のスーパーでも各社力を入れてオーガニックワインを陳列しています。値段で言えば1000円を切っているものもありますが、主に1000円台が多いと思います。
以前、日経新聞の取材を受けた時にお話をしたのですが、ビールメーカーにとっては、今までワンコインでしか売れなかったワインが1000円以上で売れてくれれば、魅力的なマーケットとなります。それを狙ってきているということになります。
マヴィの生産者は工業的にワインを造ったりはしません。
フランス同様にイタリアにも優れた生産者がいました。ピエモンテ州のロヴェロさんからはじまり、今は6生産者です。
簡単に説明します。
<ロヴェロ家>北イタリア
トリノから少し南に行ったところにあるピテモンテ州アスティにあります。
アスティは有名なバローロの隣村です。
ピエ(麓)モンテ(山)という名の通り、アルプスの麓にあります。山を越えるとフランスになります。
1985年からオーガニックです。急斜面に畑を持っています。またロヴェロ家ではグラッパの蒸留も行っています。
<ムザラーニョ家>北イタリア
ヴェネツィアで有名なヴェネト州にあります。
平地が多いところです。
イタリア国内ではワイン生産量がトップの地域になります。手摘みというよりはたっぷりと一気に収穫できる大きな機械を使います。
機械で収穫して美味しいワインが出来るのかとお思いでしょうが、大丈夫。ムザラーニョ家は普段飲みワインの超上質を目指して造っています。
<マニョーニ家>中央イタリア
銘醸地として有名なトスカーナ州にあります。
谷を隔てた向かい側には世界遺産のサン・ジミニャーノがあります。
古くから伝わる製法で造るキャンティや、オーク樽で発酵させたシャルドネとステンレスタンクで発酵させたマルヴァジアビアンカをブレンドしたスパレットなどリーズナブルな価格でフレンドリーなワインを造っています。
<モレッティ家>中央イタリア
トスカーナ州の首都フィレンツェ近郊の小さな町「スキャンディッチ」の丘にあります。
週の3日間は外科医、4日間はワイン農家として働くモレッティさんは、トスカーナ地方の土着品種のみを使ってワインを造っています。
数年前からは二酸化硫黄を一切使用しないことに決め、積極的にビオディナミ農法を取り入れています。
<ククルーロ家>シチリア島
シチリア島中央部の標高480mの高原地帯にあります。
日中の寒暖差が12度もあるため、力強い気品のあるぶどうになります。
工場で量産される安酒ばかりが目立つシチリアワインの中で、ククルーロさんは異彩を放ちます。
地元品種にこだわり、異なる区画のぶどうを別々に仕込みブレンドすることで、どのようなワインに仕上げるか熱心に研究しています。彼らのワインはとても繊細で、シチリアワインのイメージを覆すエレガントな味わいです。
それでは、イタリアのマルケ州から来日されたパオロ カプリオッティさんをご紹介いたします。
彼のワインについてはご本人よりお話ししていただきます。
私の仕事はワインを造ることで話すことではないのですが、私のワイナリーについてお話したいと思います。イタリアのオーガニックワインの状況については先ほどマヴィ代表の田村さんから詳しく説明があったかと思いますが、ひとつ加えさせていただきます。マルケ州全体としての生産量は少ないのですが、たくさんのオーガニック農家がおります。オーガニック農業というのは認証だとかラベルだけでなくて、心持ちだったり、精神だったり、生活だったり、人生そのものに関わるものです。私(パウロ)が小さいころから父がワインを造っていて、私も2003年頃からワインのボトル詰めなどワインに関わることになりました。わたしたちの畑で農薬などを使ったことは一度もないのですが、2007年からオーガニック認証は受けています。私たちはマルケ州の中でも南部のオッフィーダに畑を持っています。
マルケ州の北部では主に白ワインを生産しています。南部は赤ワインと白ワイン両方を生産しています。マルケ州のユニークなところは、山間部、緩やかな丘陵地、海と様々な気候が存在するということです。ワインは主に緩やかな丘陵地帯で造られています。それがマルケ州のワイン生産量が少ない所以でもあります。高密度粘土質の土壌と海から来る風や、日中の温度差があるので、すごくいいぶどうができます。
イタリア語でペコラは羊を意味します。ペコリーノは羊飼いのワインだと言われています。
この品種は畑の中でも北の方に植えられています。ペコリーノ、サンジョヴェーゼ、モンテプルチアーノが登録地域になります。私たちが造るワインの主要品種となります。私たちのワイナリーは家族経営なので私と父が中心で行いますが、繁忙期には助っ人をお願いすることもあります。
私たちが造っているワインについてご説明します。サンジョヴェーゼ100%で造ったワインが「ポレジオ」です。続いての赤ワイン「ポデーレ」はイタリアの中でも一番古いDOCとなります。サンジョヴェーゼとモンテプルチアーノを50%ずつブレンドして造ります。モンテプルチアーノは小樽で短い期間で熟成させます。サンジョヴェーゼは味わいがデリケートなので大樽でゆっくりと熟成させます。
白ワインの「パッセリーナ」はステンレスタンクで18℃以下の温度管理をした状態で醸造します。発酵終了後は澱と一緒にそのままステンレスタンクで熟成させます。
「ポレジオ」は私たちのワイナリーから見える山の名前から取っています。この山は人が寝ている横顔のようでもあり、「新曲」の作者ダンテがお酒を飲んで酔っ払って仰向けになっているようにも見えるので付けました。トマトソースを使ったパスタや野菜料理、お肉料理と合わせられます。